達人の咀嚼?!
前回、片噛み解消法で顎を大きく動かしてものを噛むといいと書いた。最近の日本人は、昔に比べて硬いものを食べなくなったので、顎の動かし方も自然と小さくなってきているのだろう。そのせいで、最近の若者は顎の発達も悪くなってきているともいわれている。顎の発達が悪くなると、歯並びも悪くなる。
そして、歯の噛み合わせが悪いと筋力も低下する。ウエイトリフティングなどのパワー系の競技ではその影響は顕著だそうだ。マウスガードやテンプレート(奥歯で噛みしめる形の器具)を使い噛み合わせを調節すると、筋力や集中力がアップして競技能力が高くなるという。また、射撃競技などでも、体の揺れが軽減して標的が狙いやすくなるそうだ。
以前どこかで、「身体能力に優れた人は、ものを食べるときに顎を大きく動かしている」、という内容のコラムを読んだことがある。そのコラムによると、メジャーリーグで活躍中のイチロー選手は、こめかみまで大きく動くぐらい顎をダイナミックに動かして食事をするらしい。
私が知っている中で最も顎を大きく使って咀嚼されていた方は、武術家の黒田鉄山師範である。そして、私が実際に目にしたことのある中で、最も身体操作能力に秀でた方でもある。
黒田先生は、駒川改心流剣術・民弥流居合術・四心多久間流柔術など日本古流武術5流儀の宗家でいらっしゃる。一般の方には馴染みが薄いかもしれないが、古武術界では平成の英傑と呼ばれる方で、その動きのすばらしさは、「生きた奇跡」といっても過言ではない。
私は以前、黒田鉄山先生の道場に1年半ほど通わせていただいていたことがある。黒田先生は、まさにこめかみまで動かしながら、大きく咀嚼されていた。こめかみが目立つほど動くということは、大きく動かしているというだけではなく、しっかりと噛んでいるということでもある。
イチロー、そして黒田先生・・・。しっかりと物を噛む能力があるということは、身体運動の達人たる一つの条件なのかもしれない。
そういえば、堺正章も「かくし芸」の達人であった。