整体 ・ “言” 始め
整体という言葉がはじめて使われたのは、いつ頃だろうか。ときどき、「野口整体の創始者である野口晴哉氏が、はじめて『整体』という言葉を使った」という人がいるが、残念ながらそれは違うようだ。
オステオパシー(米国ではカイロプラクティックと並ぶポピュラーな手技療法)を学んだ山田信一という人が、「山田式整体術」と名乗って活躍しはじめたのが大正の中頃である。そして、「山田式整体術講義録」という著作が、大正9年に発行されている。野口氏は、そのころはまだ10歳になるかならないかくらいである。また、長じて野口氏が治療家として名を成したときも、はじめは「整体」ではなく、「野口法」と名乗っていたそうだ。
私が知る限りでは、「整体」という言葉を日本ではじめて公に使ったのは、この山田式整体術であるようだ。もちろん、これは「整体」という言葉がいつ頃使われだしたかという話である。「整体事始め」ではなく、「整体“言”始め」である。
先に、「日本ではじめて・・・」と書いたが、実は中国医学の中にも、“整体” という言葉がある。中医学では、古くから “整体” という言葉が用られていたようだ。しかし、この “整体” は、人体の「統一性」、「全体性」、「調和」といったことを表す概念であり、手技療法としての「整体」という意味はない。
最近、「中国式整体」とか「中医整体」といった看板をよく見かけるが、この「整体」は、もちろん手技療法の「整体」。もともと中国には「整体」という手技療法はないので、「中医学理論に基づいた手技療法」とか、「推拿(中国の手技療法)の手法を用いた整体術」というようなものなのだろう。
野口整体では、「体を整える技術」という名詞としての「整体」のほかに、「整体する(体を整える)」という具合に動詞的にも使う。そしてもう一つ、「整った体」のことも、「整体」という。
野口整体における「整った体」、つまり「整体」は、中医学の “整体” という概念にかなり近い。背骨が真っ直ぐならば体が整っているとか、仰向けで脚の長さがそろっていれば整っているとか、そういう固定的で紋切り型の「整体」ではない。自分らしさという、生命としての個性を発揮しつつ、全体として統一性と調和がある。人間の本来の自然な姿を「整体」と呼ぶのであり、その自然な体に導いていくものが「整体法」なのである。
野口氏が、整骨法でも正体法でもなく、「整体法」と名付けたのは、「整体」という言葉の中にそういう深みを見出したからではないかと、一人想像している。
« エアコンは上手に使おう | Main | 冷えの急所 »
「 整体」カテゴリの記事
- 謎の禁煙席(2016.06.03)
- “ 混ぜるな危険!? ”(2015.04.19)
- 牛乳は腰に手を当てて飲むべし!(2015.03.03)