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January 2006

整体操法制定委員会.3

整体操法の制定に関わった人物の中でも、野中豪策という人は、その名の通り豪快でおもしろい人だったようである。「人間は玉でごわす」というのが彼の持論で、へそを中心として腹部を玉と見なし、その外側縁を「健康線」と呼び身体調整の最重要点としていたという。整体操法の側腹操法や、皮膚病に用いる恥骨操法は、彼の技術がもとになっている。
野中氏は恥骨操法を、「皮膚病一切奇妙」と名付け、「皮膚病の一切が治る急所だ」といって皮膚病治療に効果を上げていたという。また、「ガンも内臓に出来た皮膚病だから」と、恥骨への操法で癌も治ると豪語していたらしい。
野中氏は腹部外縁の操法で有名だが、手にある脳溢血の後遺症の調律点なども彼の治療法から採用されている。以前、何かの資料の中に、「腹痛一切奇妙」と名付けられた足の甲の調整点があったのを見た憶えがあるが、これもネーミングからして元は野中氏の技術の中にあったものかもしれない。

宮廻清二という人は、尾骨の調整で有名だった人で、尾骨を操法することで胸郭(肋骨)を整えるという技術を持っていた。肺結核などの呼吸器病を、尾骨の操法で治していたという。彼の尾骨操法は、肋骨の調整や眠りを深くする操法としてなど、整体操法の中に今も受け継がれている。

柴田和通氏の「手足根本療法」は、現在では「足心道」と呼ばれている。整体操法の中の足指 ・足裏の操法には、柴田氏の手足根本療法の影響が見られる。「脊髄反射療法」の梶間良太郎氏は、胸椎9 ・7 ・8のショックによる副腎操法の生みの親だ。

そのほか、この資料(整体操法読本 巻一 野口晴哉著 )の中では委員の名前に入っていないが、永松卯造という人の永松活点は、整体操法の中で腹部第5調律点となっている。
腹部第5調律点は痢症活点とも呼ぶが、古い資料では永松活点と痢症活点は別のものとして図示されている。どちらも右季肋部だが、痢症活点は肋骨の縁であるが、永松活点は肋骨のずいぶん奥になっている。永松氏が右の季肋部を押さえると、四指の根本まで肋骨の裏に入ったそうである。

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追記

この記事の中の野中豪策氏に関する内容は、私が整体の師から直接聞いた話であるが、野中氏はその晩年においてガンに対する認識は変っておられたという。そのことに関する詳しい情報が、氏の治療技術を継承されている野中操法研究会を主宰されている川島金山先生のブログに掲載されている。
ガン治療に対する野中氏の晩年の考え方の変化と氏の治療技術に関する情報を多くの方々に知ってもらうことを目的に、川島先生のご了解を得て、以下にリンクを貼らせていただいた。

   幻の整体操法 野中操法と野口整体の邂逅

2009.3.18

整体操法制定委員会.2

整体操法制定委員会の委員の顔ぶれを見てみると、オステオパシー ・カイロプラクティック ・スポンディロセラピーなどのアメリカ発祥の手技療法をおこなっていた人が意外と多いことに気づく。これらの療法は、大まかにいうと脊椎を中心とした人体の関節を調整することで全身の機能を改善し健康を保つことを目指している。(脊椎も椎骨が関節を作って連なっている)
整体操法の脊椎操法は、これら舶来の療法の影響を多分に受けている。オステオパシーやカイロプラクティックなどが入ってくる以前、日本の手技療法といえば、ほとんどが漢方理論によるものだった。背骨やその周囲に働きかけるとしても、経絡(体内を流れる「気」の経路)及び経穴(いわゆるツボ)に対する働きかけが中心で、脊椎そのものの可動性や弾力を調整するという発想は、あったとしてもごく少数派だったと思われる。
整体操法が制定される少し前から、これらアメリカ式の脊椎調整法が日本の手技療法の中に少しずつ取り入れられてきた。整体“言”始めでも書いたが、オステオパシーは大正年間に山田信一氏によって日本に紹介されている。山田氏も制定委員のひとりだ。
カイロプラクティックが日本に入ってきたのは、オステオパシーよりも少し遅いらしいが、今ではオステオパシーよりも一般的に知名度が高いようだ。ここ十数年ほどでカイロプラクティックという正式名称を名乗るところが増えてきたが、それ以前は 「整体」 と名乗ってカイロを施術しているところが多く、いろいろと混乱を招いていた。
スポンディロセラピーは、脊椎反射療法と和訳され、“あんま・マッサージ・指圧師”の国家資格を取得するための教科書にも、指圧に影響を与えたものとしてオステ、カイロと共に名前を挙げられている。按摩は奈良 ・平安時代からおこなわれてきたが、指圧はこれら外来の手技療法の影響を受け近代になって成立したものだ。
スポンディロセラピーは脊椎の棘突起やその両側の皮膚 ・筋肉に叩打、押圧、振動法、温熱 ・冷却などの刺激をおこない脊髄反射中枢に刺激を与え治癒をうながすというものだったようだが、現在日本でこの療法をおこなっているところはとても少ない。

整体操法において、脊椎の観察と操法はとても重視される。しかし、そのアプローチの仕方は、影響を受けたと思われるオステオパシーやカイロプラクティックとはだいぶ異なったものとなっている。オステやカイロは、大まかにいえば、背骨の転位(ズレ)が体の機能を不全にさせると考える。そのため、まずはその脊椎の異常を正すことに重点が置かれる。背骨の不自然を正せば、自動的に体の機能は改善するという考え方だ。
整体法では、骨が曲がったり歪んだりしているのを見つけても、それをすぐさま元の位置に戻そうとはしない。その歪みやズレがなぜ起こるのかということをまず考える。目を酷使しても、体が冷えても、お酒を飲み過ぎても脊椎は可動性を失ったり転位したりする。その原因となる生活の仕方、体の使い方の方を正すことを考えずに、とりあえず骨の歪みを真っ直ぐにしてしまおうとは考えない。
目を蒸しタオルで温めたり、足湯をしたり、飲み過ぎないように注意すれば元に戻るような背骨の変化は、直接背骨を矯正しない方が体にとっては良い。それだけでは自然な状態に戻れなくなってしまっている異常であったら、その時はじめて脊椎に働きかける。それも、力で矯正するのではなく、自然に治っていかない「感覚 ・働きが鈍った状態」を、自力で戻る力を発揮するように「敏感な状態」(過敏ではない)にしていくことに尽きる。
なるべく自分の体の中の力で治っていくように手伝っていくのが整体式。そうしていくことで、体が自然治癒力を発揮するように育てていく。手伝い過ぎると体は自分の力を発揮しなくなってしまう。また、場合によっては体にとってかえって負担になる。骨の歪みを矯正技術で外部の力で治すというのは、整体法では最後の最後の手段となる。

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