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October 2009

永松卯造氏と指圧基本型制定

以前にこのブログで整体操法制定委員会について書いたことあるが、その制定委員に名を連ねている方で永松卯造という人がいる。永松氏は当時腹部の操法で有名だった療術家で、整体法の腹部第5調律点、別名 「痢症活点」 は、氏の治療技術から採用されている。
永松氏の手技は、なかなかに素晴らしいものだったそうで、戦中だったか戦後だったか、整体法の創始者・野口晴哉氏が振る舞い酒のメチルアルコールで胃に孔を開けてしまったときに、永松氏を呼んで操法をしてもらった、などという話を聞いたことがある。(又聞きの又聞きの又・・・)
痢症活点は、右の季肋部の下縁であるが、永松氏がここを押さえると、氏のそろえた四指(第2~5指)が根元まで肋骨の裏に入ったという。

さて、この永松氏、整体操法の基本型の制定に貢献した方であるが、意外なことに厚生省医務局編纂の指圧教本の指圧基本型制定委員でもあったそうだ。
この指圧の基本型は、昭和32年に制定されたらしい。整体操法制定のおよそ15年後である。
この頃の永松氏は、立場的には整体を離れ指圧に合流していたのだろう。

指圧・整体の学究団体である「日本指圧師会」 の会報に、創立当時の会報から厚生省医事課編 別冊 「指圧の理論と実技」を完成させた理事の方々の座談会の模様が掲載された。(第465~467号)
日指会の許可を得て、永松氏の発言にスポットを当てて、部分的に転載させていただく。

基本型の制定

会長:
「皆さん御苦労様です。・・・まず始めに何故基本形の制定が今迄業界の難事業とされていたのでしょうか・・・」
S:
「それは正式の教育機関がなかったからでしょうね」
永松
「又一つには各流派があって互いに其の特技に立て籠もって譲り合う気持ちがなかったからでしょう」
・・・中略・・・
U:
「お互いに譲り合う可きは潔く譲った、自説自技にとらはれず、大所高所に立って検討審議したことは指圧史上特筆す可き会議だったと言えよう」
・・・後略・・・

施術時間

会長:
「そこで皆さんが現在患者に実際上施術しておられる時間はどれ位要しておりますか皆さん順に」
S:
「私は四十分位ですみます」
N:
「私は四十五分が標準です」
永松
「私はまあ三十分ですね」
I:
「私は二時間から三時間位です。患者さんの症状によって異がうが」
・・・後略・・・

施術の順序・主は背か腹か

会長:
「指圧は其の施術の順序は、手の運ぶ都合が主なのか、治療効果を主として考えて定めたのか」
I:
「手の運びに都合のよい順序になっております」
・・・中略・・・
永松
「私は腹が一番肝腎と思うので腹からかかります」
・・・中略・・・
会長:
「自然界に於いて男女の体質が根本的に相違があるとすると、治療の場合でも男女によって治療を帰る必要はありませんか」
永松
「中気の半身不随症状の重症も男女によって現はれ方が異なる、男は右へきたのが重く左が軽い、女は左が重く・右が軽いように思える」
・・・中略・・・
会長:
「私はカイロの先生には叱られるかも知らないが腹を主として診ている、然し脊柱を無視するのではない、必要とあれば診るが、指圧では腹ばかりでは効果の無い場合が随分あるようですね」
A:
「あります。指圧は腹背表裏一体の治療で独特の効果が上がる」
永松
「私は脊椎矯正は行はず腹一筋の治療だが、この腹も只病気ということを考えず、姿勢と健康と云うことでみても私の経験からすると、子供のうち足を抱いて丸くなって寝るような者は青年期になって大病をするようだ。
又左側を下にして寝る子は胃、右側をし下にして寝る子は肝臓が悪いようです。吾々はこうしたことにも注意してみることが必要です」
・・・後略・・・

この座談会での発言からも、永松氏が主に腹部を調整することで体を整えることを実現されていたことが推測される。治療時間の短いところも、技術の高さを表しているかと思う。
整体も指圧も、その始まりのときには、さまざまな治療技術を持つ人々が集まって基本となるスタイルをつくったのだ。
しかし、おそらく永松氏はここで制定した基本型に則って治療をすることは無かったであろう。それは、他の制定委員に関しても同様であると思われる。
指圧の基本型の制定に関わっても、その後も皆元来自分の工夫で行っていた流儀で治療し続けていったであろう。
このとき定められた基本型に沿って治療を行っていくのは、これより後に、「指圧教育」を受けた人達である。

私も、鍼灸指圧マッサージの資格を取ったので、鍼灸学校でまさに厚生省が認める指圧の基本的なスタイルを勉強したことがあるが、治療技術と呼ぶにはいささかお粗末である。それも当然のことで、学校で習う基本型は、言わば全身の押し方の一例といったところであり、素人がとりあえず人の体を触れるようにする手引きのようなものなのである。
そこから技術を高めていくには、当然ながら各自の修行と研究が必要である。

さて、整体操法をまとめ上げた野口晴哉氏は、多くの療術家の奥の手とも言える治療技術を自家薬籠中の物にしてしまった天才である。野中操法でも、始めから恥骨の硬結を本当の意味で捉えることができたのは野口氏だけであったという。
そして、それらの高度な身体調整の技術を一つの体系に溶かし込んだ整体操法を、広く世の中に広めるという道を取らず少数精鋭で伝えていったことで、技術の質を落とすことを最大限防げたのではないかと思う。
もちろん、整体でも型を習得することは、修行の第一歩である。しかし、形だけまねても整体操法とはならない。やはり師伝による教授と、各自の努力が必要である。外形は似たような形を取れても、そこに動く本質的なものを自得しなければ、操法の効果は上がらない。その本質的な部分は、教われば分かるというものでもないし、そもそも教える側も曰く言いがたいものなのだ。


ちなみに、今回記事の転載をご快諾していただいた日本指圧師会は、精力的に指圧や整体の研究・教育を行っている団体である。治療技術としての指圧を志している方は、一度HPをご覧になってみるとよいと思う。
また、指圧・整体・療術の歴史に関する貴重な資料も掲載されているので、興味のある方にはお薦めである。
日本指圧師会に見る指圧の歴史

体の乾き

今年は秋口は、例年より体が乾き出すのが遅いかと思っていたのも束の間、先日の台風一過、急に体が乾き出してきた。
気温も下がり始め、寝冷えでいろいろな症状を呈する人も増えてきたが、体が乾くこともまた体調不良を引き起こす要因である。

人間は、体が乾いてくるということに対しては感覚的に鈍いようだ。暑いときの水分不足はまだ感じるのだが、涼しくなって、また寒くなってからの体の渇きにはとんと鈍い。鈍いのだが、影響の方はしっかり体に現れる。

例えば、
胃が荒れる、節々が痛い、皮膚がかゆい、目が乾く、空咳が出る、体がむくむ、小便が近くなるなどなど。
秋から初冬の胃の痛みや、布団に入ると咳が出るなどの症状は、水分を上手に摂ると、それだけで良くなってしまう場合が結構ある。

体が整体になってくると、渇きにも敏感になってくるが、まずは知識として「秋から冬は体が乾く」ということを知って、水分補給に気をつけるのがいいだろう。
潤っている状態が分からなければ、乾いている状態も分かりにくいのだから、ともかく水を飲んでみることから始めて欲しい。潤ってくると、体が乾いている状態の不快な感じが分かってくる。

水分と言っても、お茶や紅茶などは、体が潤わない。利尿作用が強いからであると思われるが、ともかく体を素通りしてしまう。コーヒーは、かえって体の渇きを助長する。
お酒はもっと乾く。お酒を飲む人は、よほど気をつけて乾き対策をしないとドンドン体が干からびて、老けていってしまう。お酒を飲むときは、一緒に水を飲むといい。

水分補給には、なんと言っても「水」がいい。
いっぺんのゴクゴクのむと、小水になって出てしまう分が増えるので、少量ずつ飲む。
少しずつ飲んで、回数で量をかせぐのがよい。
湯冷ましは、酸素も抜けてしまった死んだ水だからダメ。
スポーツ飲料のようなものは、多少の有効成分(イオン)と大量の糖分を秤にかけると、あまりお勧めできない。

秋口から初冬ぐらいまでは、スープや味噌汁、蕎麦、うどん、雑炊など、塩気のある温かい水分も吸収がよい。
そういうものを、食事の中に多くしていきながら、足りない分は水を飲むというのがいいだろう。
暖房器具を使い始めると急速に体が乾くので、スープだけでは到底足りなくなる。水を飲まなければいけない。

ちなみに、風呂に入りながら水を飲むのは、水分の吸収がよい。風呂上りも、それなりにいい。

同じようなことが書いてあるが、ここに書いたこと以外の情報もあるので、よろしければこちらもどうぞ。→ 若さを保つ乾燥対策

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