正体術 その4
正体術矯正法には、体の捻れ(回旋)を左右の歪みの特殊パターンと見るという、整体操法を行う者にとっては、とっつきにくい部分があった。それはつまり、左右重心論という正体術のセントラルドグマである。
もしかしたら、始めから正体術の考え方で体を見ていけば、それほど違和感がないのかもしれないとも思うが、それにしてもやはり、この部分が正体術矯正法の難しいところなのだと思う。
ところが、この問題をあっさりと解決してしまった天才がいる。
新正体法の創始者、宮本紘吉氏である。
宮本氏は、まさに人生のすべてを治療術の研究に懸けたような方である。すでに故人であるが、残された著書を見ても、人並みはずれた才能と人並みはずれた努力が容易に想像できる。
宮本氏は、歪みを正す姿勢をとらせて低く持ち上げた足や膝などをドサリと落とすショックで骨格を変える高橋正体術の原理を応用して、捻れ(回旋)の歪みも解消してしまう操法を編み出した。
氏の技術体系では、捻れを左右の特殊型と観ずに、そのまま捻れと観ることで、かえって身体をすっきりと矛盾なくとらえることができるようになっている。
そして、正体術に捻れ(回旋)という概念を持ち込んだ氏は、更に胸椎・腰椎・骨盤などの複数の歪みを一度に矯正してしまう操法を創りあげた。
まさに、天才としか言いようがない。
宮本氏の凄いところは、これだけではない。動診と呼ぶ検査法を行うことで、自分の体の歪みを自分で見つけだすことができるようにした。
そして、その動診で見つけだした歪みに合わせた体操を用意することで、誰もが自分一人で矯正を行うことができるようにしたのである。
宮本氏は、正体術をベースにして自らが編み出した矯正術の体系を、「新正体法」 と名付けた。名人芸である高橋正体術を、誰もができる万人向けの方法に変革したのである。
ちなみに、宮本氏の著書、「新正体法」 は近く復刻されるという話がある。これは、多くの治療家にとって大きな福音となると思う。
しかし、名人芸を排し万人ができる新正体法と書いたが、実は複雑な体の歪みを一つの体操で整えてしまうというこの方法は、非常に複雑でもある。動診を元に、そのときの歪みに合わせた体操法を決定するのだが、慣れない内は、本を見て自分にあった矯正体操を決定するだけでも結構時間がかかるかもしれない。
また、矯正姿勢の微妙な部分や脱力のタイミングなどは、やはり指導者について一度は実習をしないと難しい面もある。
高橋正体術に比べると理解しやすくなった宮本氏の新正体法ではあるが、そこはやはり複雑な体の歪みを整える矯正体操であるから、それなりの難しさはあってしかるべきものであろう。
なかなか、魔法のように便利で簡単、効果も抜群というものはないのである。
と言いたいところだが、そんな魔法のような矯正法を多くの人達に届けようと、日々研究をされている方がいる。
そして、その魔法はすでに、かなりの精度で完成されているといってよいのではなかろうか?
創始者高橋氏の正体術、宮本氏の編み出した新正体法、現代にそれらを甦らせ再現して見せた上に、更にその系譜を発展させ続けている鬼才がいる。
正体術倶楽部を主宰されておられる、神崎崇嘉先生である。