正体術 その5
宮本氏の新正体法は、動診によって歪みを検出し、その検出された歪みに対して対応する操法を当てはめて矯正体操を組み立てるという画期的なものである。
しかし、頸椎の前後・左右・捻れ、胸椎の前後・左右・捻れ、腰椎の前後・左右・捻れ、それに骨盤、股関節の歪み、上肢・下肢の捻れなど、細分化された歪みを調べ出し矯正法を設計するというものであるため、大変複雑な内容となっている。それだけにマスターすれば大きな力となるが、専門家以外の方には少々難しいものとなっている。
(一つ一つの歪みをとるシンプルな操法もあるのだが、複合的に歪みを解消する複雑な操法に比べて切れ味が良すぎるため、かえって使い方に熟達がいる。新正体法では、複合型の操法の方がバランスがよく仕上がっている)
正体術倶楽部を主宰されている神崎先生は、かつて難解な高橋正体術を教授する前段階として理解しやすい新正体法から教え始められたそうであるが、別の意味で複雑な新正体法に音を上げる人が多かったという。
そこで神崎先生は、治療家はもちろん一般の人でも使えるように新正体法の全身の歪みを解消してしまう操法を、8つの形に整理された。
体の連動を研究された神崎先生は、頸椎から骨盤までの歪みを一気に解消してしまう矯正パターンを8つの操法に集約させた。しかも、少ない動診で済むように設計されているので、一般の方でも十分使いこなせるようにつくられている。そして、その効果は細かい動診と複雑な体操設計を行う新正体法と比べても、ほとんど遜色ないものとなっている。
高橋迪雄、宮本紘吉の両氏も不世出の天才療術家であるが、神崎先生もまた天与の才を持つ、まさに正体術の申し子である。
この8つのパターンの矯正体操が痛みなどの問題で行えない人には、別の体勢で行える8つの体操が用意されている。また、その他に骨盤調整に重点を置きつつやはり全身の歪みを正してしまう8つの骨盤操法もある。
神崎先生は、難解で名人芸的な正体術を、誰もがその恩恵にあずかれるようなものにしたい、という理想をもって研究、活動されている。
その神崎先生の正体術矯正法はセミナーでも習得が可能であるが、そう遠くない将来、DVDで学べる教材が出される予定である。
さて、私は整体操法を行う者であるので、正体術矯正法を整体操法に活かせるようにしたいというのが、正体術を学び始めた動機である。
神崎先生は、私の勝手な事情を快くくみ取って下さり(面白がって下さり?)、ハウツー的な事柄よりも正体術の根本的な原理を教えて下さった。
その指導を受けたのはセミナーの中ではなく、セミナーを離れた喫茶店や居酒屋の雑談の合間であった。
そういうときに先生は、冗談の合間にポロリと重要なことを話される。それも冗談の続きのように話されるので、こちらは居酒屋での歓談のときでも全く気が抜けない。(先生は、とっても冗談が好きなのだ)
またある時は、コーヒーショップで20分足らずの空き時間に、滔々と正体術の仕組みや操法の組み立て方を解説していただいた。わかったような顔をして聞いていたが、実は約20分間、ヒンディー語かスワヒリ語を聞き続けたような気分だった。
その後も、先生のご厚意でたくさんの貴重な資料を頂戴した。(課題も大量に!)
しかし、その資料と格闘する中で、だんだんとヒンディー語とスワヒリ語が頭の中で一つの絵になってきたのだ。
そして、以前にこのブログにも書いたように、全く先生のご厚意で神崎正体術の指導者養成講座とでも言うべき内容の講義を受ける機会に恵まれたのである。そこで伝授された内容は以前さらりと書いたが、動診によらず施術者の主観的な観察で矯正法を設計できるものであり、ある意味高橋正体術と新正体法のハイブリッド版のような操法である。
もちろんある程度の素養がなくては何ともならないのだが、長い年月修行してやっと使えるようになる名人芸のような操法の設計を、シンプルな観察法で組み立てられるように工夫されたものだ。
「名人芸を排し、誰にでもできる」 ものをというのが神崎先生の理念であるが、まさにその理念を体現している操法である。
しかし、「名人芸を排し、誰にでもできる」 ものを創り出すことができるのは、当然ながらやはり名人に限るのである。