師伝の違う整体操法
この一年ほどの間に、自分とは師伝の違う整体操法を行う方々と交流をもつ機会に恵まれた。
現行の整体協会の操法に近い型を行う方、野口先生の内弟子だった方に操法を学ばれた方、その他整体協会から離れて独自の路線で操法をされている諸先生方の系統の方々。また、野口整体から分派したといってもよいであろう井本整体を学ぶ方とも交流をもつことができた。
整体操法の特徴の一つは、急所と型である。鍼灸の経穴などとも一部共通する部分もあるが、整体には体を調整するための調律点と呼ばれる独自の急所がある。そしてまた、その急所を押さえる(愉気する)ための型というものがある。
急所だから押せば効くというものでもなく、やはりその急所を活かす押さえ方、愉気の通る型というものがあるのである。(実は、ただ押しても効くという急所も結構あるが、熟練者の型による操作は全く違う効果を実現させる)
今回、いろいろな系統の操法に触れてみて、各々の師伝で調律点の位置にも若干の差違があり、それを押さえる型にも結構違いがあるということを知った。
例えば、上肢第5調律点という急所がある。この急所は、肘のあたりにあり、体の内部の化膿・炎症に対して用いる。この調律点は、炎症や化膿を引き起こす血液の異常を正す効果があるとされている。体の内部の炎症であるから、胃炎・虫垂炎など、○○炎と名の付くものには大抵効果がある。
さて、この第5調律点の位置であるが、私の師伝では肘の両端、つまり肘を曲げたときにできる内側と外側のシワの両先端あたりである。外側(手のひらを上にして腕を伸ばしたときに外側)、すなわち橈骨側は、経穴(ツボ)でいうと肺経の尺沢~大腸経の曲池あたりになる。内側、すなわち尺骨側は、ぶつけると小指にビーンと痺れが来るところ、経穴でいうと心経の少海あたりになる。
なぜ一つの急所が、尺沢~曲池ということになるかというと、それこそ整体操法では型で押さえるからで、私の師伝の型で押さえると尺沢も曲池も刺激するような押さえ方になる。
しかし、同じ上肢第5でも、ある師伝では尺沢そのものを押さえるような型になっている。また、別のある師伝では、尺骨側のみを上肢第5としているものもある。私の師から伝わる操法では、どちらかというと橈骨側を主とし、尺骨側は補助というか、橈骨側への刺激の保ちとして使う。(ただし、尺骨側には尺骨側の別の使い方がある)
同じ急所でも、だいぶ位置の取り方が違うものである。そして、取る位置が違うのであるから、当然ながら押さえる型もかなり異なっている。
また、上腕の真ん中あたりにある上肢第6調律点。これは、第5が体の中の炎症に対して用いるのに対して、体の表面の炎症・化膿などに使う。例えば、皮膚の炎症、傷が膿む、虫刺されが治らないなどである。
ちなみに、口内炎など、口の中の炎症には第6を使う。第5は目では見えない内部の炎症、第6は目に見える範囲の炎症。口内炎は、口を開ければ見えるから第6ということになる。
この第6は、別名化膿活点とも呼ばれるのだが、古くは第5を化膿活点と呼び、第6は丹毒活点と言ったそうだ。今では、抗生物質があるため丹毒はほとんど見られなくなっているから、丹毒活点という名前は消えて、代わりに目に見える化膿を治す第6が化膿活点になったのだろう。
この第6も、師伝によって微妙に位置が違う。
7つある上肢調律点では、その取る位置や押さえる型に、第1~4は比較的師伝による差違が少なく、第5~7にはだいぶ違いが見られた。
上肢の調律点を押さえる型は、整体操法を学ぶときに、相手との間合い、相手の体や呼吸をコントロールすることを学ぶ練習にも使われる。その練習型ともいえる上肢の型が、これほど違うということは、なかなか興味深い。
表面的な形が違っても、整体操法の求める体の使い方さえ押さえていれば、型としての力は発揮されるということだ。
長い間に身につけた型というものは、やはり体にしみ込んでいるので、自分が師に習った型が一番使いやすいのだが、その型ではどうにも急所が取りにくいという体の人が、ごく少数だがいるのである。
そういう人を操法するときに、他の師伝の操法との交流によって知り得た型で押さえると非常にしっくりくることがある。
練り上げて、磨き上げた一を以て万に当たるのが整体操法であるが、手数があることもときに功を奏することもある。良いものは、こだわり無く吸収して自分のものとすることが、より自分の操法を高めることにもなるし、操法を受けに通ってこれれる方々の役にも立つ。
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