経絡整体(仮称) その2
経絡を用いて、遠隔部の脊椎椎側の硬結を処理することができる。また、古い打撲や捻挫の鈍りを解消することにも役立つ。痛みや不快な症状の軽減・解消にも、もちろん使える。
経絡整体(仮称)は、なかなか面白い研究テーマであった。
そして何よりも、経絡理論は学問としても膨大な内容を持っており、七面倒くさいところが飽きなくて良い。
私は、一応鍼灸師でもある。といっても、自宅にも治療院にも、鍼の一本、もぐさのひとつまみも無い。言ってみれば、“ なんちゃって鍼灸師 ” である。
しかし、経絡や経穴(ツボ)に関しては一応一通り知ってはいるのだ。
整体操法の中心は、やはり背骨、脊椎操法である。背骨そのものに働きかけることもあるが、多くは椎側、つまり背骨の棘突起の両側の筋肉にアプローチする。
棘突起のすぐ脇をのラインを一側、指二本分外のラインを二側、三横指の処を三側と呼ぶ。このうち、二側、三側は、膀胱経の一行線、二行線に相当する。
いや、相当すると考えて操法してみると、なかなか面白い。
整体操法は、経絡理論から見てみると、膀胱経を中心として全身の経絡を調える手法であるとも言える。
膀胱経とは、考えてみれば興味深い経絡である。大雑把に経絡と現代医学の区分けによる臓器との関係を言えば、肝経は肝臓、腎経は腎臓と関わりが深いわけだが(実際の経絡治療では、経絡の表裏、五行相生・相克などの観点からもう少し複雑)、背部の膀胱経には、肝愈・心愈・脾愈などの、他の経絡に属する働き(臓器)を調整できる経穴(ツボ)が並んでいる。
その経絡の走行は、目頭から始まり頭部を経て背部を通り脚部後面を下がって足の小指に至るのだが、背部では二本に分かれて走行する。それが、ちょうど脊椎二側・三側に合致する。
そして、肝愈・腎愈などの愈穴の位置関係が、整体の脊椎操法の整圧点とオーバーラップする部分がある。
昭和の初期、整体操法が編まれたときに、カイロプラクティックやオステオパシーの手法も取り入れられたというから、背骨に対する操法はそこから来ている部分もあるだろうが、当然ながら古来中国から伝わってこの方、日本で独自の発展を見せた鍼灸・按摩の理論や手法、急所が取り入れられなかったとは考えにくい。
そもそも、武道・武術の活点などは、経絡・経穴から研究されたものが多い。その活点を吸収した整体操法であるから、経絡や経穴と無縁のはずがないのである。
いや、どちらかといえば、当時の療術家の間では、経絡などは取り立てて議論の対象にするまでもないほど常識的なことであったかも知れない。
さて、脊椎の二側、三側の椎側の急所を個別の点と見ずに、連続する経絡の一点と見て操法してみると、普段の脊椎操法とはまた違った味わいが出てくる。
すなわち、処としての点を押さえるのではなく、弦楽器の弦を押さえる感覚で膀胱経を押さえるのである。すると、そのライン上に響の伝わる他の処が浮き上がってくる。
その浮き上がってくる処とは、そこを押さえると弦の張りすぎや弛みすぎが調整されるであろうポイントである。そうやって、次々と調整ポイントを押さえたり、愉気したりしていくと、膀胱系(脊椎の二側なり、三側なり)が調律されるのである。
同じような感覚で、全ての経絡を調整できる。ただし、経絡は陰経と陽経に分けられ、陰経と陽経では感覚が違う。陽の経絡は、張りのある弦のような感覚であるが、陰の経絡は、水の流れ、地下を流れる水路のようである。
陰経と陽経では、同じ調律するのでも愉気・整圧の感覚は少し異なる。ちなみに、膀胱経は陽経に属する。
経絡の調律は、虚実で観る。張りすぎている経絡、「実」 は弛める。力を失って 「虚」 になっている経絡は、力が戻るように調整する。
こうして、全身に張り巡らされた経絡の虚実、張弛のバランスを取っていく。
ここで経絡同士の関係性を利用すると、更に経絡の虚実を調整する方法が格段に広がるのだが、説明が煩雑になるのと、理論と実際に多少の食い違いがあって、未だまとめ切れていないので今は紹介しない。
愉気や整圧だけでなく、例えば腕を持って動かしたりする場合にも、腰椎を捻る操法や下肢をある角度に曲げてストンと落としたりする操法などでも、経絡の流れを意識して行うと、意識しないときとは違った趣があり、体に及ぼす効果もまた変わってくる。
また、この感覚を使って、体操法を設計することもできる。現に経絡を用いた体操は、新正体法や経絡指圧その他でも、いろいろなものが作られているようである。
さて、こうして経絡を調律していくと、非常に体が 「調った」 状態にすることができる。不思議だが、これがなぜか、「調った」 感じであり、「整った」 感じとは違うのである。
これは、私の中の語感の問題なので説明が難しいのだが、イメージとしては普段の操法で 「整える」 のに比べると、経絡を操法して 「調えた」 ものは少々手伝い過ぎの感がある。もう少し、本人の体の自力を働かせて整って行く方が良いように感じる。
まあ、まだ始まりの段階なので、これは工夫していけば解決する問題かも知れないが、意外と重要なことであるのは確かだ。
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