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時代の変化と一側の硬直

ストレスという言葉が、日常語として使われ出して久しい。

常にイライラしている人を見ると、あの人ストレスがたまってるんじゃない、などと言う。
こういう人は、一昔、いや二昔前までは、欲求不満なんじゃない、と言われていた。

整体では、背骨の両側を 「椎側」 と呼ぶ。椎側で、棘突起のすぐ際に親指を除く4本指を並べた場合の一番内側の指一本分の上下に走る筋肉のラインを 「一側 (いっそく) 」 という。この一側には、精神的な問題や性エネルギーの状況が現れる。

仙骨から発する性エネルギーは、一側を通って頭へと向かう。実は人間の場合、性のエネルギーが生殖活動に使われるのは極一部である。他の大部分は、大脳の働きを始めとする感情や情緒、思考、意欲、行動力などに転換される。人間は、この有り余る性エネルギーを様々な活動に昇華させて、現在の文明社会を作り出したわけである。

骨盤から上昇する一側が、途中で閊えることがある。一側が閊えてエネルギーの停滞が起こると、精神的もしくは肉体的な不調和が発生する。そして、その閊えが脊椎のどこに生じるかで、現われる異常・症状は異なる。

また、一側は性エネルギーが仙骨から大脳へと上昇するルートであると同時に、今度は頭の働きに転換した精神的なエネルギーとでも言うべきものが体の方に下降して来る導線でもある。この上から降りてくる一側が閊えても、やはり心身に様々な問題を引き起こす。

下から来る一側が閊える場合は、環境や体の問題など何らかの事情で要求を叶えることができない状況があるわけで、これはいわゆる 「欲求不満」 的症状であるとも言える。やりたくもない仕事を嫌々やっていたり、言いたくても言えない不平不満を抱えていたりすると、下から上がってくる一側が閊え出す。
これに対して、上から来る一側が閊えるのは、頭の中のある種の緊張が体に反映して不調が起こるということで、いわゆる 「ストレス」 による心身の失調と言ってもいい。神経性胃炎など、神経性○○症などと呼ばれるものの多くは、上から来る一側の閊えである。

例えば、下から上ってくる一側が第8胸椎で閊えると、感情が不安定になる。まさにイライラしたり、怒りっぽくなったり、感情に過剰な高ぶりが生じてくる。第6胸椎で閊えれば、性エネルギーが食欲に転換して過剰食欲になったりする。
同じ第6胸椎で閊えるのでも、上から来る一側が閊えているとしたら、大脳的な緊張から起こる胃の異常で、神経性の胃炎やストレスによる食欲不振などは、この類いである。

一側の閊えは、椎骨の上がり下がりと連動することが多い。一側が下から来て閊える場合は、多くはその閊えている椎骨は上がって上の椎骨にくっついている。逆に、上から来る一側が閊える場合は、その椎骨は下がって下の椎骨にくっついている。
一側の硬結・硬直自体を押えてみると、下から来た一側の場合、下に向けて押える方が抵抗が強い。上に向けて押える方が抵抗が強ければ上から来た一側である。


閊えの無い一側は、愉気しながら押えて外側に向かって弾くと、ぱらぱらとした何本かの線のようなものを感じる。その線は7本とも10本ともいわれるが、この細い線がキレイに分かれていて柔らかい弾力がある状態が健全な一側の姿である。
しかし、実際には、一側が全てきれいにぱらぱらと弾けるような人はほとんどいない。そのような人は、まさに心身に閊えの無い天真爛漫な人である。

一側が閊えて硬直すると、このぱらぱらとした線が一かたまりになってしまい、一本の太い線となってしまう。更に閊えが進むと、その硬直したラインの一点に硬く結ばれた塊のようなものを生じる。これが一側の硬結である。一側の硬結は米粒の半分とか、それ以下の小さな塊だが、異常が進むほど硬く小さくなっていく。


この十数年の間に、現代人の一側は非常に硬直し、その緊張が弛みづらくなっている。最近では、子供でも一側がきれいに分かれている子は少ない。
その原因の一つは、TVゲームの流行から、それに続くパソコンや携帯電話の普及であろう。TVゲーム、そしてパソコンや携帯などで、頭、眼、指先などを酷使するために、神経系の緊張、疲労が抜けづらくなっているのだ。

そして、それらの機器の発達がもたらした高度情報化社会である。あふれかえる大量の情報の波に常にさらされると共に、携帯やメール、ネットを通じて常時他者と繋がっているという緊張状態の持続は、現代人の精神を疲弊させつつある。

携帯電話には、いつでも連絡が取れるという便利な面はあるが、逆にどこに居ても携帯で捕まってしまうという状況が、ある種の窮屈感をもたらしていることは間違いないだろう。
その人の持つ人間関係や携帯の使い方にもよるが、日常的に携帯に依存した生活をしている人ほど、自分の部屋で一人で居ようが、旅行先だろうが、喫茶店でくつろいでいようが、携帯の電源を切らない限り、誰にも邪魔されない本当の一人の自由な時間は無いのである。
では、電源を切ればいいではないか、ということになるのだが、今度は常に連絡が取れるようにしておかなければならないという、不文律というか、暗黙の了解がある。それを無視して電源をOFFにしておくのは、それはそれで、また新たなストレスを生むことになる。


十数年前、治療院を開院した当時は、頭部・頚部の操法は、大抵坐位でのみ行なっていた。特に必要のある人以外は、仰臥で頭や頚を操法することはほとんど無かった。
しかし、だんだんとそれでは頭の緊張が弛まない人が増えて来て、今では半数以上の人に仰向けの状態で頭部・頚部、また時には眼にも愉気をしている。これも大げさに言えば、時代の要請ということになるのだろうか。

一側の硬結を処理するには、愉気の感応を図りながらながら整圧し、最後に息を吐ききる瞬間に外側に向かって弾くのだが、この硬結を弾いて弛めると、非常に快感がある。
しかし近年、この一側の硬結を弾かれてもあまり快感を感じない人が増えてきている。そこまで現代人の一側は、鈍く硬直し固まってしまっているのだ。

一側が強く硬直している場合、その奥に深く潜んでいる硬結をつかまえるのは、なかなかに難しい。1回の操法では、直接硬結にアプローチできないこともある。そんな頑固な硬直・硬結には、それこそ頭部・眼などの調整をしたり、下からの一側の場合、骨盤への様々な操作により、硬結を浮かび上がらせる準備をする必要がある。
一側を弛めるには、眠りを深くする操法も重要となる。部位で言えば、主に後頭部、胸部、アキレス腱、などの操法である。
また、テクニック的なことでいえば、場合によっては一側・三側を交互に繰り返し刺激する方法も、硬直した一側を弛めるのに有効である。(主に胸椎一側)

野口整体の世界では、現代は肝臓の時代だとか、呼吸器の時代だとか言われる。そのどちらも、時代の要請があるのだが、同時にこれからは神経系の調整がどうしても外せないものになってくる。どんどん硬直の度合いを高めていく一側を、どう健全に保っていくかということが、新しい時代に適応していく過渡期にある現代人の、時代の急処となることは間違いない。


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