頚部の操法
季よみ通信 其の19 「整体10年」 ~頚部操法~ では、頚椎の調整における重心の崩しについて書いた。頚椎部の調整において相手の重心を浮かすということは、操法の効果を決める大事な要素である。
しかし、それ以外にも整体操法ならではの頚部操法における技術的要点のようなものがいくつかあるので、こちらで少し書いておこうと思った。
まず、頚椎は第1~第7頚椎と七つあるわけだが、それぞれの椎骨に対して効果の上がりやすい整圧の角度というものがある。こちらの押さえる角度もあるが、大事なのは相手の頚の(顔の)角度である。
第1頚椎は、ほぼ後頭骨の中に隠れていて直接触ることはほとんどない。第1頚椎の操法は、その異常側の後頭骨を上げる操作で代用される。下がっている後頭骨を上げると、第1も正されることになる。
また第2頚椎の操法で、第1も連動して変化することが多い。それこそ頚の角度にコツがある。
第1・第2頚椎は、相手が上を向くようにして押さえないと効果が上がりにくい。第3・第4は、真っ直ぐ前を向いてもらい、第5~7は下向きである。
人によっては、第3は上向き、第5は真っ直ぐの方が合う場合もある。どちらにしても、何度という決まった角度があるわけではなく、その人によってそれぞれの椎骨に合う角度で整圧、もしくは愉気をする。
また本格的に頚椎を正そうとする場合、頚椎を操法する前に、頚が治りやすくするための準備が要る。
対象となる椎骨が上部頚椎のときは、頭部第2調律点への愉気や、後頭骨の左右で下がっている方(多くは異常側が下がっている)を上げる操法をする。そうすることで、頚椎の上部は治りやすくなる。
下部頚椎の場合は、肩甲骨・肩関節・上肢の操法、ときには胸部の操法をおこなうことによって、頚椎の治りやすい状況をつくる。そうしておいてから頚を操法すると、何も準備をしない場合に比べて、格段に効果が上がりやすい。
もし、これらの準備操法をおこなっても頚に変化が起こらなければ、その回の操法では頚はちょっと愉気しておくくらいにして、本格的に操法しない。何回かの操法で準備をして、硬直して鈍くなっている頚椎に動きが出てきたところで、本格的に頚椎に働きかける。その方が簡単に、しかもきれいに治ることが多い。
焦っていきなり異常箇所に手をつけると、かえって悪くすることもある。体には治っていく順序のようなものがあり、それを無視してのアプローチは、体の自然を乱すことになるのだ。
急性の異常は、直接患部に愉気をしても効果が上がりやすいが、慢性化したものほど準備に時間をかける必要ある。
しかし、準備のための操法といっても、それらの一つ一つ操法は、本来それぞれが独立した操法である。
「後頭骨を上げる操法」 は、右は頭に行った血液が降りにくくなったのを下ろす効果があり、左は血液が頭に上がりにくくなっている状況を改善する。逆上せで頭がぼーっとするなどという場合は右の後頭骨を上げ、立ち眩みしやすいなどという場合は左を上げる。嫌なことがいつまでも忘れられない、などというときは右を操法する。左を上げれば、頭の働きが高まり覚醒度が増す。
「上肢第7操法」 は、肩関節の異常を治す操法で、五十肩の調整法でもある。また、急に字が下手になったとか、不器用になったなどというのも、第七操法でよくなることが多い。
「肩甲骨はがし」 は、肩甲骨や肩関節、上肢の異常の調整はもちろんのこと、その効果はとても広範囲に及ぶ。頚から上の鬱血状態を改善する効果もあり、頭に血が上って降りないとか、ぼーっとするなどというときにも使う。
頚から上の血行を改善するので、頭痛、歯痛、目・鼻・耳の病気、歯茎の異常、花粉症などにも効果がある。
その他に適応症を挙げると、頸椎部の異常、顔面神経麻痺、呼吸器の異常、心臓の病気(左)、肝臓・胆嚢の病気(右)、手首の故障、乳腺症などであろうか。
また、上がり症や赤面症、考えていることが上手く人に伝えられない、などというのにも効果がある。
頚椎を正すというと骨格矯正的な感じがするが、骨格を変えようと骨にアプローチすると毀しやすい。頚椎の調整は筋肉に働きかけるのが王道である。
むち打ち症の初期などは特に気をつけるべきで、筋肉の硬直を愉気で丁寧に弛めることに専心した方がかえって骨の歪みも治りやすい。
なお、むち打ちの多くは、直後には骨のズレや歪みは現れないことの方が多い。数日してから骨格が歪み出す。つまり、よほどひどい衝撃で骨格がおかしくなっている場合以外は、直後にレントゲンを撮っても、骨のズレなどは写らないということだ。
しかし、この段階で筋肉の異常を対象にして愉気をしておけば、頚椎が歪んでくるのをかなり防ぐことができる。
さて、頚椎調整には準備が大切なのであるが、実は頚を本格的に操法しなくても、これらの準備をしている内に頚椎の異常が治ってしまうことはよくある。
周辺環境を整えていくことで自然に頚椎の異常が治ってしまうようであれば、圧倒的にその方が望ましい。なるべくこちらのテクニックを使わず、本人の体の力で治っていく方がよいのは自明のことである。
準備の操法は、頚椎に限らずどこの調整の場合でも重要になる。患部を直接操法せずに、この準備のための操法で治していけるようになることは、「季よみ通信 其の19」 の終わりに書いた、なるべく技術を使わないで治すことの第一歩ともなる。