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「先(マヅ)体容(カラダノカタチ)を正して・・・」 その1 

「病家須知」 という書物がある。

大政奉還まであと35年という、1832年(天保3年)に発行された、わが国初の家庭医学百科・家庭看護指導書である。タイトルの意味は、病家(病人のいる家)は、須く(すべからく)知るべしということである。
著者は、武士出身で医師となった平野重誠(1790~1867)。平野は御匙(将軍の主治医)である多紀元簡に学び将来を嘱望されたが、官職に就かずに町医者として庶民の治療に専心したという人物である。
「病家須知」 の内容は、日々の養生の心得、病人看護の心得、食生活の指針、妊産婦のケア、助産法、小児養育の心得、当時の伝染病の考え方・処置対策、急病と怪我の救急法、終末ケアの心得から医師の選び方まで多岐にわたる。
(※農文協HP参照)

この書には、現在野口整体に伝わっている、新生児のカニババ(胎便)の排泄の重要性や初乳にその排泄促進作用のあることなどが記されており、また終末ケアに関する記述なども整体のそれと基本的な指針において近いものがある。
古今東西の医学書を渉猟したという野口晴哉氏であるから、当然自国の重要な医学書であるこの 「病家須知」 にも目を通したことであろう。

この 「病家須知」 の中に、養生の大事の一つとして、姿勢を正すことと呼吸を調えることが挙げられている。
現代の我々にとっても、非常に参考になる内容なので、ここに紹介したい。


「先(マヅ)体容(カラダノカタチ)を正して、後(ノチ)に息を調和(トトノフ)べし」
〔まず姿勢を正しくし、さらに呼吸をととのえなければならない〕

「姿勢を正しくするには、座るときにまっすぐになるのがよい。背骨が前かがみになるのも、後ろに反るのもよくない。頭はまっすぐに鼻とへそがまっすぐ相対し、かたよったり傾いたりせず、上を向いたりうつむいたりせず、首は伸びているのがよい。肩は力が抜けて下がっているのがよく、いかっているのはよくない。眼の位置を定めて物を見るときは頭とともに動かすようにする。両手は引き寄せて身体に近づけ、膝の上にゆったりと置く。腋の下に卵が一つ入るくらいがよい」

まずは正座を基本にして姿勢の正しいあり方を解説しているが、そもそも正座というのは、日本人にとって自然に腰腹に力が集まり、肩の力が抜ける理想的な姿勢を取りやすい形なのである。

まず始めに「頭の位置」 ということを説いている。頭の位置を正しくするということは姿勢を正す上で重要なポイントである。頭がきれいに背骨の上に乗るように意識するだけで、頚や背中などに力を入れなくても背筋が自然に伸びる。それを鼻と臍というガイドとなるポイントをつくることで、更に感覚をつかみやすくしている。

「頚は昴(ノビ)たるがよし。肩は低(タレ)たるがよく・・・」 とある。 「首を伸ばす」 ではなく、「首は伸びているのがよい」、「肩を下げる」 ではなく、「肩は力が抜けて下がっているのがよく」 となっているところが重要である。
首を意識的に伸ばそうとすると頚や肩、胸などの筋肉に余分な力が入ってしまう。伸ばすのではなく、自然に伸びている状態にあるようにするのである。
そのためには、先ほどの頭の位置を調節するということが一つのポイントになる。頭の位置を楽に上へもっていき、「偏(カタヨラ)ず斜(マガラ)ず、仰(アフムカ)ず伏(ウツムカ)ず」ならば、自然と首も伸びた状態になる。
逆に言うと、頭の位置を調節するときにも首に力を入れてはいけないということである。


「もっとも肝要な心得は、腰から下腹を前へ押すようにすれば、臍下丹田に力が入って気が満ち、息もすべて臍下丹田に届く。胸・あばら・みぞおちにつかえるものがなく、全身の力が臍下丹田・腰のあたりにあることを意識するようにする。しだいに慣れてくると、しいて意識しなくとも、自然にできるようになり、息がのどを出入りするのを意識しないようになるはずだ」

原文では、「腰を以て小腹(シタハラ)を前へ推すやうにすれば・・・」 とあるが、この場合の腰は、いわゆるウエスト部分ではなく、仙骨2番辺りを中心とした骨盤(後面)から腰椎下部辺りであろう。
「前へ推すやうに」 することで、骨盤が立ち下腹部に力が集まる。これを、「ウエスト辺りを中心に腰を反らす」 としてしまったら、全く違う身体運動となってしまう。

ここで、力を入れて推すようにするのも、腹に力が集まる感じをつかむまでで、感覚をつかんで慣れてしまえば、「漸(シダイ)に習慣(ナレ)ての後は、あながちに力をも用ず、自然にかく為得(ナシウル)やうに」 なるということだ。

そして、鳩尾(みぞおち)が弛んで閊えていないということが大事である。いくら下腹部に力が入っても、鳩尾が硬くなってしまっては、かえって体をこわすことになる。

丹田に力が入って気が充ちると、自然に息も深く下腹に入ってくる。
そうなると、喉や胸をつかって息を出し入れする感覚はなくなり、途中を吹っ飛ばして、鼻からいきなり下腹部に息が入ってくる感じになる。


  → 「先(マヅ)体容(カラダノカタチ)を正して・・・」 その2


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