作法
整体操法には、「型」 がある。どこを押さえるのでも、ただ押せばいいということはなく、必ず「処(急所)」 を押さえるには型を以ておこなう。
正座の型、蹲踞の型、跨ぎの型のように基本的な構えがあり、その上にそれぞれの操法における様式としての型がある。
様式といっても、もちろん見た目を良くするために、ただそれっぽい恰好をするということではない。型は合理的に体を使い、かつ最良の効果をあげるために、長い年月をかけて研究され構築された機能的に優れた身体技法である。
整体操法は、一種の 「作法」 といってもよいと思う。作法というと、なにやら堅苦しいイメージもあるかもしれないが、そもそも作法とは、心身を合理的にコントロールするための便利なガイドである。
箸を箸置きから手に取るとき、作法に従って動けば、まず右手で取り上げて、左手で支えるようにしてから、右手を箸を使う位置に滑らせる。ここまで三動作かかる。
右手で持って、そのままちゃっちゃっと指を動かして、片手で持ち替えてしまえば早いような気がするが、実際にやってみると作法に則っている方が動きに無理がなくてやりやすい。また端から見ていても、動作が滑らかで美しい。
作法に沿った動きにはうつくしさがある。つまり、行儀がいいということは、見苦しくないということだ。
テーブルの上にペットボトルとグラスがあったとしよう。ペットボトルを取って直接飲んでみる。つまりはラッパ飲みだ。
次に一度グラスについてから飲んでみよう。どうだろうか、一度グラスについでから飲んだ方が、手順は増えても動きとしては無理がなく気持ちよく飲めるのではなかろうか。
なによりも、ラッパ飲みしたときと、グラスに注いでから飲んだときでは、その後の体の感じが全く違う。グラスに注いでから飲むと、ラッパ飲みにくらべて体もスッと纏まりがあるし、気持ちもすっきりと静かな状態にあるのではないだろうか。
これは、上述の箸の扱いにしても同様である。
作法に則った動きは、体も楽で快適に働かせることができる上に、身体の感覚とリンクしている心の状態をも整えてくれる力がある。
整体操法も作法だと思ってみると、型の持つ意味も理解しやすいし、間の取り方や呼吸のあり方なども教わらなくても自然と決まってくる。
整体を学ぶ人は、行住坐臥、普段からお行儀よくすることが、実は上達の早道だったりする。