正体術 その6
正体術によって体の歪みを正すことには、どういう意味があるのだろう?
骨格の歪みが病気や痛みを引き起こすことは、一般にも広く知られるようになったと思う。これは、もしかするとカイロプラクティックの功績かもしれない。
骨格と体の変動に関して例を挙げれば、例えば背骨の第4胸椎という椎骨は、心臓と関係が深い。心臓がおかしい場合は、その棘突起のすぐ左脇に硬結があらわれる。これが、右に出る場合は多くは食道の問題である。第4胸椎が引っ込んでいる(陥没している)場合、食道ガンを疑うこともある。
また、第4胸椎は腕の疲労からも変化を起こすし、呼吸器とも無関係ではない。また、不安や悲しみなどの感情の動きとも連動している。
こうして背骨の一つ一つが体のいろいろな機能や場所と関係している。そして、逆にこの第4胸椎を打撲などの外力で故障すると、上記のような関連部位に異常が起こることもある。
背骨以外にも、色覚異常の人は左右どちらかの肩甲骨が下がっていることや、子宮後屈の人は手首の関節に異常を持っていることなども骨格の歪みと体の機能の関連の代表的な例である。
また、お腹にガスがたまったときは、太くなっている右足首を引き締めるとガスが出てくるなどというものもある。
また、こうした部分的な歪みだけでなく、姿勢とか体勢とも言える体の偏る傾向もいろいろな異常と関係している。
高橋正体術で重視している重心論とは重心の左右偏りの問題だが、整体的には左右は消化器系の問題である。便秘・下痢も重心の左右偏りで起こりやすいし、虫垂炎(盲腸)も重心が何かの拍子に右に偏ったときに起こるとされる。腸捻転や腸閉塞も左右偏りと無関係ではない。
消化器ではないが、心臓病は圧倒的に左重心の人に多い。
呼吸器に問題を持つ人は、前屈傾向を持つ。結核・肺気腫などの呼吸器系の病には、当然関連する椎骨や急所に働きかけることもあるが、その人の持つ前屈傾向、つまり前屈みの姿勢を正していくことが大きな効果をもたらす。
そして、泌尿器と関連するのは、捻れの歪みである。泌尿器に問題があるときは、背骨のどこかに必ず捻れの異常がある。
整体では、前後・左右・捻れの他に、エネルギーの集散の方向として上下と開閉を観るが、今は触れない。
ともあれ、体の歪み、姿勢の偏りというのは、健康状態と大きく関わりがある。体の歪みには心理的な問題も大きく絡んでくるのであるが、心の状態・あり方・方向性が体の歪みを作り出しているとしても、整体操法や正体術矯正法で体の方からアプローチして歪みを正すことで、心の状態も変わっていくことが少なからずある。
さて、正体術矯正法であるが、この方法の優れているところは指導を受ける本人が自力で体を操作するというところである。矯正姿勢はこちらで整えるが、そこからの動作や力の入れ抜きは自力で行う。自分の意識で体を動かして行うことで、他力で行う矯体操法に比べてリスクが少なくなる。つまり、無理がないのである。(もちろん、やり方を間違えれば体をこわすこともある)
そして、工夫をすれば矯体操法に遜色ない効果を上げることもできる。
私は現在、矯体操法の代わりに正体術の矯正法を操法に組み込んでいる。そもそも私自身の操法の組み立て上、瞬間的な骨格矯正はあまり多用はしないのだが、正体術矯正法は自分の力で体を変えていく面が強いので矯体操法よりも良い面がいろいろとある。
整体操法を行う者の強みは、触ってわかるというところである。矯正法の効果が、どのように体に影響を与えたのかを触ることによって知ることができる。
この強みを最大限に活かして、より深く正体術を研究していければと考えている。