前々回まで、肛門(痔)の話から、大腸~十二指腸~胃~食道・咽喉~口内と消化器系を下から登ってきたが、口角炎で消化管の外に出たので、ついでに顔の問題にも触れてみよう。
今回取り上げるのは、顔面神経麻痺。ある日突然、顔の半分が麻痺して、だらりと垂れ下がってしまう。目も半開きで閉じず、額の皺も半分消え、口はしっかり閉まらず端から水が漏れてしまう。口笛も吹けなくなる。顔面神経麻痺とは、こんな症状である。
ヘルペスウイルスが引き起こすと言われたりするが、直接の原因は、頚や耳下腺などの局所的な冷え、例えば長時間風が当たっていたとか、汗をかいたまま急激に冷やした(汗の内攻)とか、そういうことが多いのではないかと思う。
現代医学の方ではあまり有効な治療法が無いようであるが、整体では割ときれいに治ることが多い。
外傷や腫瘍などが原因のものはまた難しい問題を含んでいるが、いわゆる特発性(原因不明の)顔面麻痺は、急処を的確に捉えさえすれば、多くはどんどん良くなっていく。
急処は、頚・顔・胸椎椎側・肩甲骨内側・腕などにあるが、症状が起こっているときはどれも手応えがあるというか、反応が出ているので、意外と急処がつかまえ易いのではないかと思う。
さて、顔面神経麻痺の操法手順の一例だが・・・
1.仰臥で後頭骨下縁及び上頚(第2頚椎三側)を四指を使って一定圧をかけて愉気。
ほとんどは患側が硬直しているので、そちら側にウエイトを置く。
2.眉頭の骨の凹み・目の下頬骨の凹み・小鼻の脇の凹み・オトガイ孔、
そしてこめかみに愉気。
3.耳の下(耳下腺のあたり)を人差し指か中指を当ててじっくり愉気する。
ここは、重要ポイントの一つ。顔の痙攣などもここが急処。
4.坐位になってもらい、頭部第2調律点
(耳の前を上がったラインと、瞳の中央を上ったラインが交わるところ)
に愉気。 ( → 頚椎の硬直も弛む)
5.第2~第4胸椎の四側(肩甲骨の内側縁あたり)の硬直を外へ向けて押さえる。
小さいヌルリとした塊の中に、更に小さい硬いもの(硬結)があるので、
それをつかまえて愉気。
6.患側の上肢第七操法か、肩甲骨はがし。
7.患側の化膿活点(上肢第6調律点)を2~3回はじいて、上に向けて愉気する。
8.第4胸椎二側をしっかりと押さえる。
1.の上頚だが、たいてい麻痺がある側が硬直して第2頚椎が歪んでいるので、7対3ぐらいの割合で左右差をつけて押さえる。操法の極めに、坐位で最後にもう一度押さえることもある。
2.の顔の急所は、どちらかというと三叉神経のポイントの様に見えるものもあるが、顔面神経麻痺でもこれらの処に反応が出ており、愉気することで回復に効果を現す。
5.の第2~第4胸椎の四側の硬結だが、わかりにくい場合は伏臥で見てもよい。多くの場合第4胸椎の四側、肩甲骨の際の内側あたりにあるが、かなり小さな独特の感触がある硬結である。
これを上手くつかまえられると、操法の効果がはっきりする。人によっては、これを押さえると顔に響く感じがある。顔の麻痺を治す、魔法のポイントである。
7.の化膿活点は、顔面神経の系統の終末がこのあたりまできていると考えて良い。実は、化膿活点と肘の中間あたりに、化膿活点によく似た感じの硬結があり、これも顔面神経麻痺の急処である。よくわからなければ、化膿活点でも良い。
8.最後に第4胸椎をしっかりと整圧しておく。5.の四側の硬結もそうだが、第4胸椎を丁寧にしっかりとやっていくと、顔の形がどんどん変わっていく。
また、本人にも、顔の活元運動をやってもらう。活元運動を知らない人は、とにかく顔をいろいろに動かしてもらう。動かなければ、指で補助して動かしても良い。
顔面神経麻痺の治療は、発症してからなるべく時間が経っていない方が有利である。直後からなら、なお良い。
しかし、発症後半年以上経ってから操法を始めても、1ヶ月ぐらいでほとんど良くなってしまった人もいるし、交通事故で顔面神経麻痺になって数年経っているという人も、じわじわと改善してくるので、必ずしも発症直後からでなくても効く。