サイレント・ ヴォイス
BSテレ東で、「サイレントヴォイス 行動心理捜査官 楯岡絵麻」 というドラマがやっている。「このミステリーがすごい!大賞」 2010年優秀賞の同名小説が原作だそうだ。
このドラマは、ほとんどが取調室の中で容疑者と主人公の取調官楯岡絵麻とのやり取りで進行していく。主人公は、人が嘘をつくときに大脳辺縁系の反射でおよそ0.2秒の間に現れる “ マイクロジェスチャー ”と呼ばれるその人固有の身体活動を捕まえる。
それは、ほんの小さな眼球の動きだったり、唇や頬をゆがめる動作だったり、手や足のちょっとしたしぐさだったりする。
容疑者は大脳新皮質(意識)でウソをつくが、大脳辺縁系(無意識・身体)は、ウソをつけない。そして主人公は、容疑者に対してこう言い放つのだ。
「あなたに聞いてるんじゃないの、あなたの大脳辺縁系に聞いてるの!」
実はこれに近いことは、整体の現場でもおこなわれているので、このドラマを共感をもって興味深く見た。
相手の人格を尊重することは当たり前であり重要なことだが、整体操法をおこなうものは、相手の頭を通り越して体と対話しているようなところがある。
操法の途中に、「ここは痛いですか?」 とか、「こちらとこちらではどちらが響きますか?」 などと聞くことがあるが、たいていはどう感じているかは分かった上で、相手の方の注意をそこに集めて感覚を高めたりすることが目的だったりする。
たまには相手がどう感じているのかはっきりと分からなくて口頭で聞くこともあるが、そういうことは稀で、ほとんどは体と直接の対話で操法を進めているのだ。
そもそも体の整っていない人は身体の感覚も鈍かったり、感覚異常があったりで、こちらの手の方が正確に相手の体の状況を分かるということがほとんどなのである。
また、体には本人すら自覚していない心の状態や認めたくない感情のありようなども反映している。
ごくわかりやすい例でいえば、出がけに夫婦喧嘩をしてきた人などは体がプンプン、プリプリと怒っているし、試験に落ちたり昇進を逃した人はみな体もガックリと気落ちした体になっている。
そういうことは背骨の何番が出っ張っているとか捻じれているとかいうこともあるのだが、それ以前にほとんどはパッと見てわかるような体の表情として現れている。もちろんドラマの中に出てくるマイクロジェスチャー的なものも含んでいるが、発している空気や雰囲気がすでに雄弁に語ってしまっているのだ。
こういうことは特に整体の世界に限ったことではなく、多くの人が日常的に感じていることだろう。
整体の世界では、もう少し分かりづらい部分も観察の対象になるので、年季を積むとその情報量も桁違いに多くなる。
操法の現場では、「〇〇さん、どうぞ」 とお呼びして、数歩の距離を歩いて私の前に座られるまでの間に、今の体の調子や気分の状態、感情の置き所、前回の操法の効果などは大まかにでもつかんでしまうようにしている。
「その後、いかがですか?」 というのは、もちろん文字通り相手の方に現在の状態をお訊ねしているわけだが、実はもう一方で自分の印象と相手の方の感じ方のズレを確認するところに眼目がある。こちらの方が、その後の操法にとって重要になることが多い。
そのズレがどこから来ているのかを体を観ることを通して確認して、それを解決していくことが操法のポイント、体を変えていく転換点となることも少なくない。
その段になると、体との対話が(圧倒的に)主になり、ほとんどの場合相手の方のと言葉のやり取りは従になる。
「あなたに聞いてるのではありません。あなたの背骨に聞いているのです」 なんて言ったら怒られてしまうから黙っているけれど、操法が終わって礼を交わすまでは、体との対話とやり取りが操法の大部分を占めるのである。
そういえば、実際に米国の捜査機関で、日本人がマイクロジェスチャーの第一人者として活躍しているという話を数年前に聞いたことがある。
整体もそうだが、顔色や空気を読むのは日本人のお家芸なのかもしれない。