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2015年9月

2015年9月 2日 (水)

「足は親指」 の続き・・・。

直立し、二足歩行する人間は、両足の 「親指の付け根」、「小指の付け根」、「踵」 の三点でバランスを取っている。
前回の記事は、その中で親指が重心のコントロールの要なのだという話であった。

親指が動きをリードしているというのは本当だが、これも実際は親指と、小指のつけ根、踵との連係プレーで重心をコントロールしている。強いていうなら、その三点の間に生じる微妙な 「張力」 のごときものの働きで、足裏にかかる重心を制御している感覚だろうか。
よく言われる、足裏の 「縦のアーチ」 と 「横のアーチ」 に備わっている 「弾力」、「支持力」 を上手く使って操作すると言ってもいいかもしれない。

 

少々繰り返しになるが、足の親指が大事だということは、ただ足の親指に力を入れるとか体重を乗せるとかいうほど単純な話でもない。

跨ぎの操法などでは、術者の身体操作において母指(球)に重心が乗っていくことが多いが、踵・小指球の支えが潜在的にあった上で重心が母指方向へと流れていくということで、もちろん母指球一点で体重を支えるなどということではない。

また、重心を乗せるということは必ずしも 「力を入れる」 という意味ではなく、逆に 「抜く」 ことでそれを実現している場合もある。
例えば、武道・武術の世界では、踵で地面を押すようにして前進する歩法があるが、このときにも母指(球)の支えを 「抜く」 ことで踵による前方移動を可能にしている。
また、細かい話になるが、更に言えば親指の使い方は、実は右と左でも微妙に異なっているのだ。

 

足の親指は体の重心制御の中心であるのだが、右の親指と左の親指は、それぞれ違う働きを担っている。

例えば、立位で体の余分な力みを抜き、右足の親指と左足の踵にグーッと力を入れていくと、体は自然に左に捻れていく。
同じように、左足の親指と右足の踵に力を入れてみると、どうなるか?
右に捻れていくのかと思うが、実際にやってみると、そうはならない。右に捻ろうとする力と左に捻ろうとする力が体の中で拮抗するような感じになり、体が固まってしまう。
それに、そもそも左の親指は右ほど力そのものを入れづらい。
そこで、右の踵の支持はそのままに、左の親指の力を抜いていくと、今度はすんなりと体は右に捻れる。

右の親指は力を入れることで体の動きを作り、左の親指の力は力を抜くことで体の動きを作っている。この動きを体癖でいうならば、前者が捻れ型7種体癖的働きで、後者が8種体癖的働きということになる。

 

運動の感覚、言ってみれば力感としては、右の親指(右足)は 「グーッ 」と力を入れていくような動き、漸増・漸減的でしっかりとした力感を伴った力の使い方が得意である。例えていうなら、自動車のアクセルやブレーキを踏むような動きである。
左の親指(左足)は、どちらかというと瞬間的な力の入れ抜き、「パッ、パッ、」 とON・OFFを切り替える動き、「スッ、スッ、」 と抜く動きが得意である。今では少なくなってしまったが、自動車のクラッチを切ったりつないだりするような動きである。

右ハンドルでも左ハンドルでも、車のアクセル・ブレーキとクラッチの位置関係が変わらないのはこのためである。

 

足の親指の働きが左右で違うということは、足そのものの使い方、ひいては骨盤の機能にも左右に違いあるがということである。つまりは、体全体で見ても、右半身と左半身は役割が違っているということだ。

右足は、1種・5種的な縦の動きを作るようにできている。左足は、(右足と連携して)3種・7種的な左右・捻れ的な動きを作る役割がある。

サッカーの世界では、80%以上の人の 「利き足」(ボールを蹴りやすい足)は、右足だそうである。
右足は、前後の動きに特徴があり、また衝撃を受け止める強さがある。したがって、ボールを蹴るために振り抜くような運動が、まさに持ち味なのである。
逆に、サッカーでいう 「軸足」 にあたる左足は、回旋運動、そして重心の左・右(内・外)の切り替えを一本の足の中でおこなうことに長けている。そのため、左で体勢をコントロールして、右足でボールを蹴るというのが、ほとんどの人間にとってやりやすい動きとなっている。

ほぼ同様の理由で、陸上競技やスピードスケートなどのトラックは、みな反時計回りになっている。内側に来る左足が体の進むべき方向へ体勢をコントロールし、右足が推進力を担当しているのだ。

 

さて、話は少し広がってしまったが、足の親指の左右の機能が異なることは、通常ほとんどの人が意識しない。バレエや武術などの世界では、熟達してくると気づく人がいるかもしれない。

気づいたところで、ほとんどの人は左右差を埋めようと努力するのではないだろうか。

もちろん、分野によっては体の左右を全く同じように使うことを求められるものも少なくないだろう。しかし、現実には体の方は、そうなってはいない。本当は、左右の個性を活かして体を一つに使うことを研究すべきなのである。

世紀のチェリスト、パブロ・カザルス(1876~1973年)は、演奏において 「体の左右を一つに使う」 と言っていたそうだ。ご存じのようにチェロは右手と左手で全く別の仕事をする楽器である。それぞれ別の動作をしていても、体の左と右を合わせて一つに使うという感覚は、左右の腸骨(骨盤)の力を中心に集めていく、まさに閉型9種的世界である。

整体操法も、閉型9種体癖の野口先生によって作られているものであるから、その 「型」 は、当然のごとく修得者に9種的な身体運用を求めている。
そして、その9種的な骨盤の動きも、異なる役割を持つ左右の親指の働きによってもたらされているのだ。

 

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